ミケランジェロのバンディーニのピエタ
2019年11月から始まったミケランジェロ・ブオナローティの「バンディーニのピエタ」の修復が、途中コロナで中断しながらも、先日ようやく終了した。
修復は、470年を超える歴史の中で彫刻の表面がくすんでしまったのを綺麗に掃除することであった。琥珀色だと信じられていた肌が元どおりの色を取り戻したことで、ミケランジェロの作業の跡や大理石の出どころなどが明らかになった。
バンディーニのピエタ
ミケランジェロが作った3つのピエタのうちで、これは2番目の、70歳代の作品だ。ローマの教会の自身のお墓のために制作されたと言われている。
ピエタはなぜバンディーニか?
ミケランジェロの死後、弟子の手に渡り、そこから銀行家バンディーニが購入したため「バンディーニのピエタ」と呼ばれている。そしてその後、メディチ家のコジモ3世の所有するところとなりサン・ロレンツォ教会に設置されていたが、ドゥオモへ移動され、現在はドゥオモ付属美術館所蔵である。
他の2作のピエタと「バンディーニのピエタの」違い
マリアに支えられているキリストとともにマグラダのマリアとニコデモがいる。4つの身体が一つの大理石の塊に掘られており、ニコデモがミケランジェロの自画像だということは広く知られている。
「バンディーニのピエタ」は未完成である。今も左足が欠けている。
使用した大理石の質の悪さはミケランジェロを苦しませた。芸術家列伝を書いたジョルジョ・ヴァザーリによると、硬い石を彫ると不純物が混じっていることの表れとなる(らしい)火花が散るほどだったとか。
腕や足と、マリアとキリストがかつてないほど絡み合ったピエタは、まるでキリストがマリアの胎内に戻っていくようだとも見える。しかし、小さなヒビが無数に入った質の悪い大理石ではこの複雑な腕の絡みを実現できず、ミケランジェロは怒りに任せて左腕を破壊したという。(今あるのは腕は後年の追加である。)
修復は一般公開されながら行われた。私が訪れたときは作業を行っておらず、せっかくの機会だったのに残念であった。美術館に訪れたのに好きな作品が修復のために観れないのは悲しいが、最近どこの美術館でも取り入れている修復作業を見せることで作品を展示したままというシステムは助かる。完璧な姿は観れないけれど、それはそれで貴重な体験となるだろう。
長年の埃に加え、19世紀に複製を作ったときに残った成分や、ドゥオモの祭壇に設置されたときに付着した蝋の後など、イオン除去した熱湯や綿棒と小さなメスを使っての洗浄は忍耐を要する地道な作業である。
その地味で緻密な作業のおかげで以前と比較すると、汚れがなくなり人物の表情も生き生きとしているのがわかる。ミケランジェロのピエタのキリストはどれも美しい顔をしている。ヴァティカンのキリストは神の美しさだが、このキリストは優しさがある。そしてこの首の傾げかたは、後の芸術家に影響を与えた。寂しげな様子だったニコデモは老いの中にも意思があるように見える。
使用された大理石はミケランジェロが馴染みあるカッラーラのものだと考えられてきたが、今回の修復でセラヴェッツァのだと判明した。
セラヴェッツァはカッラーラへ続く山脈地帯にある。メディチ家が所有していたがあまり質の良くないことで知られ、16世紀中頃にはもうほとんど使われていなかったそうだ。
大理石は伝えられていた通り、低品質だということがこの度初めて確認され、産出先がはっきりした。ミケランジェロがこの大理石をどこからが得たかは不明だそうだ。
未完成ではあるがミケランジェロにとって個人的な思い入れが強かったであろうこの作品は、修復で息を吹き返した。
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