冬のチンクエテッレへ。
若い方はご存知なかろうが、昔「冬のリヴィエラ」という歌があった。当時、「リヴィエラ」とはなんぞや?と思ったものだが、リヴィエラとはイタリア語で「海岸」。そんな歌をぼんやりと思い出しながら、先日、個人案内の仕事で「冬のリヴィエラ」へ行ってきた。
1997年に世界遺産に指定されたリグリア州チンクエテッレは、リグリア海岸の東側に点在する5つ(チンクエ)の村(テッレ=大地)を指す。東から順番に、Riomaggiore、Manarola、Corniglia、Vernazza、Monterossoの村がある。リグリア海岸はジェノヴァを境に、西をリヴィエラ・ポネンテ、東をリヴィエラ・レヴァンテと呼ぶ。西を意味するポネンテ・東を意味するレヴァンテとは、風向きの方位を現す航海時の言葉であるが、名前からも何かしら海の潮風が感じられてよい。
地中海を望む険しい山間に作られた5つの小さな村はどれも、トスカーナの田舎町とは違い、海岸沿いの町らしく家屋が大変カラフルで青い海とコントラストが美しい。5つの村の中でも特に素敵だった村Vernazza。
5つの村は約10kmの遊歩道で結ばれている。写真の道は隣村Cornigliaへの遊歩道。坂道をずんずん登っていく。
途中、がんばって坂道を登ってきた甲斐がある、すばらしい景色に出会う。Vernazzaの村全景と岩礁。
5つの村の真ん中となるCornigliaを除き、ほかの村はすべて海岸沿いである。冬のチンクエテッレは、子供たちと遊びに行く賑やかな海水浴場とは違う海の楽しみ方で、船着場から海を眺めていると、潮の香り、波の音、カモメたちの鳴き声に心がくつろぐ。独身時代に何度も訪れた南仏を彷彿とさせる。ここ10年フランスとは無縁だが、「香り」が運んできてくれた懐かしくも美しい記憶たちに、そういえば私はこういう海の町が大好きだったことを思い出す。
Manarolo駅にて。人の顔?犬の顔?電車を待つ間、駅から眺める岩に想像を膨らませて。
Manarolaもまた、色とりどりのかわいらしい村。遊歩道から写真をパチリ。それにしても、すごいところに家が建っているものだ。山の急斜面のだんだん畑には、ワイン用ぶどうが栽培されている。チンクエテッレ産のワインは、チンクエテッレD.O.C.と甘口ワイン・シャケットラ。何世紀もの間、人々の努力によりぶどう畑が作られ、この土地の経済を支えてきた。この急斜面、どうやって作業をするのか?ケーブルカーを利用するのだそうだ。この地区のぶどう畑は全体で400ヘクタール、東京ドーム1つ分弱という栽培面積が限られていることもあり、生産量も低い。特に、シャケットラになるとチンクエテッレ以外で入手することが難しい。シャケットラは、収穫したぶどうを15日から30日ほど干した後、実をつぶし樽に入れて醸造する。Sciacchetraシャケットラという不思議な名前は、その作業が示すとおり、リグリア方言でつぶす”sciacca”シャッカ と樽に入れる “metatra “メタトラから由来していると言われている。また、ところどころに生る檸檬の木も、北イタリアとはいえ、ここが温暖な気候であることが伺われる。
町の通りには、夏になると活躍するであろうボートが並べられている。冬の間、通りはちょっとした海洋博物館のようである。
ManaloraからCornigliaへ向かう遊歩道。歩いていると感じないが、遠方から見るとかなり崖っぷちでなかなか迫力がある。
忘れてはならないのが、海の幸。大変おいしかった。チンクエテッレD.O.C.白ワインを飲みながら、お客様との楽しいお話もよい思い出である。
実はこの日、お客様と「当日の天候の都合で目的地を決めましょう」ということになっていた。アッシジか、チンクエテッレか。私が家を出たときは(いや、すでに前日から)、雨模様みたいだしやっぱアッシジかな?なんて思いながら待ち合わせのホテルロビーへ向かったが、アッシジへは一度行かれたことがあるし、どうせどこも天気が悪いのであればいっそチンクエテッレへ、というお客様のご希望で、一路リグリア州へ向かった。
ここへやってきたのは大正解であった。
心配していた雨も止み太陽の光も時折差すほどで、何よりも無風であった。季節のいい時期には人でごった返すこのリゾート地も、この時期は人影もまばらで落ち着いている。
お客様をホテルへお送りし、友達の家へ息子を迎えに行った。今日の行き先はチンクエテッレであったことを話すと、「すごくいいでしょ!何よりも、観光客のいないこの時期に行って正解よ!」と、彼女もこの季節のチンクエテッレを絶賛していた。なんと彼女は長男の出産10日前に訪問し、所要時間2時間の遊歩道を歩いたそうだ!その場で出産しなくてよかった・・・。
私にとってもとてもいい思い出となった冬のリヴィエラ・チンクエテッレ。夏の日差しに照らされたまぶしいほど青い海の色もたまらなく惹かれるが、季節はずれに行くのもまた、海も村も落ち着いていてゆっくり楽しめるかもしれない。
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