メディチ家のヴィーナス

ウフィツィ美術館メディチ家のヴィーナス

ウフィツィ美術館は2階から常設展が始まるが、入館後のセキュリティチェックを済ませて2階への階段へ至る途中のスペースで、時折、特別展が開催される。

古代ローマの石棺

6月30日まで開催中の特別展は、Divina Simulacra(神々の彫刻とでも訳せば良いだろうか)。ウフィツィ美術館の古代彫刻に着目した展示だ。これが、本当に素晴らしい。

3体のヴィーナス像

ウフィツィ美術館が所有する3体のヴィーナス像が集合。

中心に、メディチ家のヴィーナス。メディチ家のヴィーナスは、いつもはトリブーナと呼ばれる小部屋に設置されているのだが、この特別展で間近で鑑賞できるまたとない機会である。

18世紀のトリブーナの絵

これは、英国人の骨董商の美術収集家と友人達がトリブーナでポーズを決めたのを描いた作品(1715年)。ここに見られるように、18世紀のトリブーナには、メディチ家のヴィーナスだけでなく、あと2体のヴィーナスも一緒に展示されていたのである(1780年まで)。今回の特別展は、それを再現している。

ベルヴェデーレのヴィーナス
ベルヴェデーレのヴィーナス(2世紀)

ベルヴェデーレのヴィーナス(勝利のヴィーナス)は、もとはヴァティカンのベルヴェデーレの中庭にあったことから、こう呼ばれる。美しい像ではあるが、幾たびかの修復の上に、頭部は他のヴィーナス像から拝借などの復元を経ているからか、少々魅力に欠ける気がする。

天上のヴィーナス
天上のヴィーナス(頭:2世紀、トルソ:1~2世紀、16世紀の復元)

天上のヴェネレは、17世紀中葉、メディチ家レオポルド枢機卿の収集品としてフィレンツェにやって来た。たとえ後世に手が加えられていたとしてもとても美しいヴィーナスで、さすが美術品収集家としても素晴らしいレオポルド枢機卿のお気に入りだけある。衣装の襞も素敵。

メディチ家のヴィーナス
メディチ家のヴィーナス(紀元前2世紀末〜1世紀初頭)

16世紀にローマで発掘されたメディチ家のヴィーナスは、湯浴みから出て来たところに人気を感じて恥ずかし気に体を隠しているポーズをしている。恥じらいのヴィーナスというスタイルだ。ボッティチェッリのヴィーナスと同じポーズである。

メディチ家のヴィーナスは、その美しさゆえにナポレオンに誘拐された歴史を持つ。ナポレオンが失脚した後、ヴェネレは無事にフィレンツェに戻って来た。フランスはヴェネレ損失の埋め合わせするためにミロのヴィーナスを購入したのだ。

メディチ家のヴィーナス後ろ姿

トリブーナにいるときは遠目から眺めるだけだが、ここでは世界一美しい女性(マルキド・サド曰く)の周りを1周できちゃう!お尻も綺麗。立像を支えるためのイルカと天使ちゃんたちもじっくり見れちゃう。

メディチ家のヴィーナスとその影

影の方が恥ずかし感がでてるね。ウフィツィ美術館は今ではルネサンス期の絵画で有名だが、特に18世紀はグランドツアーの観光客が古代彫刻目当てに訪れる場所だった。今回の展示は、かつての、そして本来のウフィツィ美術館を再現しているようで、とても良い。

皮を剥がれるために木に繋がれるマルシアス と、皮を剥ぐための包丁を研ぐ人。包丁を研ぐ人も、いつもはトリブーナのメンバーだ。この2つの像が並べられることで、物語がより明確になる。

マルシアス は、女神アテネが作ったものの不要になって捨てた笛を拾い、自慢げに吹き鳴らしていた。美しい笛の音色に気分を良くし、大胆にも琴の名手アポロン神と演奏の腕を競うのだが、神に対抗しようとする高慢な態度には罰が当たる。その罰というのが、皮を剥がれることだった。

マルシアス と包丁研ぎ人と一緒に設置されているのは、踊る牧神とニンフ座像。マルシアス の像に関連した彫刻ではないが、まるでマルシアス が奏でる笛の音につられて、森の精たちが踊りだしているようだ。

ニンフもサンダルを履いて、今にも踊りだしそう。意外と彼女のお腹の筋肉が発達していて、驚き。ミケランジェロの新聖具室の曙をちょっと思い出した。

ルネサンスとは古代文化再生の精神から生まれた文化運動で、これらの古代彫刻がウフィツィ美術館の骨格となるのだから、入り口に展示されていることの意味は大きい。

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