フィレンツェのヴァザーリの回廊
先日、ウフィッツィ美術館の新館長が、このようにヴァザーリの回廊が一部の旅行会社の特権となっていることを指摘し、回廊を一般公開する計画を発表した。
ただし、自画像は安全性の問題でウフィッツィ美術館内へ移動される。
ヴァザーリの回廊には、現在、約800点を越える自画像が展示されている。世界唯一の自画像美術館といっても過言ではない。自画像収集は、1664年、レオポルド・デ・メディチによって始まり、当初はウフィッツィ美術館に飾られていたが、1973年にヴァザーリの回廊に移された。
ヴァザーリの回廊を歩かれた幸運な方はいらっしゃいますか?
時折行われた一般公開で、私も一度、この幸運を享受したことがある。
最近では旅行会社のみがチケットを取り扱っているので、お金さえ払えば比較的いつでも訪れることができるようになった。チケットは最低45ユーロからと割高である。
ウフィッツィ新館長は、一部の旅行会社の特権のほかに、次のことも挙げている。ヴァザーリの回廊に自画像が展示されていることは歴史的根拠もないし、何よりも絵画にとって環境が悪い。その上、たとえヴァザーリの回廊のチケットを買って入れても、すばらしい絵画をゆっくり鑑賞することができずに終わる。
実にそのとおりで、急ぎ足のガイドが説明する数点の絵をさっと見るだけで、なんとかヴェッキオ橋の上から写真を撮ることができる程度か・・・。
個人的には、回廊を通ったという感動はあるとしても、正直なところ、期待はずれというか満足度は低かった記憶がある・・・。
もともとはコジモ1世が、住居(ピッティ宮殿)と仕事場(ヴェッキオ宮殿)を安全に行き来できるように造られ、「Cammino del Principe/王子の道」と呼ばれた。
ヴェッキオ橋上のこの丸窓は「コジモの目」と呼ばれ、コジモ1世が自身の姿を誰にも見られずに町を監視するためのものであった。
新案は、ヴァザーリの回廊を「通路」という本来の目的に戻そうというわけだ。
実際に計画実行されるか否かは現在のところ未定だが、昨年すでにフィレンツェ市長もヴェッキオ宮殿、ウフィッツィ美術館、ボボリ庭園、ピッティ宮殿をひとつの美術館(共通チケット)にする案を文化財・文化活動・観光省へ打診している。ウフィッツィ館長は、各施設へのチケットは別々にとのことだが。
実はこの新館長、ドイツ人である。昨年、イタリアの国立美術館・博物館に20名の館長が新たに配属となった。内、7名が外国人(すべて欧州連合内)。イタリアの美術館なのにイタリア人に適任者はいなかったのかと物議を呼んだ。過去の芸術品で生きるイタリアが、どれだけ芸術を軽んじているかがこれでわかる。外国人がだめということではない。今後イタリアが生き延びていくためのイタリアの宝物をイタリア人が守っていくのが当たり前に思うけれど、そうでななく、欧州連合に賛同していると見せかけるための好都合などうでもよい物件にすぎないのではないか?
反面、世界が誇るウフィッツィ美術館の館長がドイツ人であることを好意的に受け止めるフィレンツェ人もいる。なぜイタリア人ではない?と疑問に思うものの、ドイツ人は汚職なしできちんと仕事ができるので頼もしいということだ。これまた然り。何を守っているのか自覚のないイタリア人に任せるよりもずっと安心だ。
この件に関しても、「世界最大の、唯一の自画像コレクションをただの通路にするのか!フィレンツェをわかってない!しかも回廊が多くの観光客を構造的に支えることができるのか?」という声も大いにある。
しかし、回廊がイタリアではよくあるいつもの特権主義に終わっている現状を思うと、私も新館長に賛同する。この館長、ウフィッツィ美術館のチケットを完全電子チケット制にして、無駄な列をなくそう!ということも思案中だそうだ。頼むデ!なにはともあれ、いい方向に話が向かうことを願う。
後日談。結果、2016年に回廊公開は無くなり、2022年に再開予定。
今まで絵画が飾られていたので遮光のために閉じられていた73の窓も覆いが取られ、予定では1度に125人が通れるウフィッツィ美術館とピッティ宮殿をつなぐ通路となる。ウフィッツィからボボリ庭園まで、さらにはピッティ宮殿内のパラティーナ美術館までとコースを選べるようになるそうだ。それにより、チケット代が異なってくるらしい。
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