ヴェッキオ宮殿の中庭に、冬の夜、訪れる。
寒さが苦手な私だが、冬でも時に穏やかな気候の日がある。そんな日に、夜のフィレンツェへ。ライトに照らされ、荘重に輝くドゥオモはとても綺麗でおすすめだが、私のお気に入りはヴェッキオ宮殿。青空を背にするヴェッキオ宮殿も素晴らしいが、この宮殿には漆黒が似合う。黒い色をした夜が数々の血生臭いフィレンツェの政史を彷彿とさせ、ライトが当たった宮殿がまるで屈することのない獅子のたてがみのように黄金色の輝きを持って浮かび上がる、そんな実に風格ある姿に見惚れるのだ。
そして、シニョーリア広場のロッジャ下に並べられた彫刻が、舞台の上で劇を演じる役者のようで人目がないときは動いているんじゃないかと思えてくる。白い大理石と同じ色の服を来た女の子が立っていた。彼女も静止しているのかと錯覚する夜の不思議。しばらくして恋人が現れ抱擁、めでたしめでたし。
ヴェッキオ宮殿の中庭も、昼の光の中でも素敵だが夜はさらに魅力を増す。
ここに来た私の目当ては、彼。噴水の上でいたずらっ子のようにイルカを抱くプットちゃん。プットとは、ラテン語でputus=幼少の子供を意味する言葉から、キューピッドも指すようになり、ひいては羽が生えた裸の幼児・天使をまとめて表す美術用語である。ルネサンス時代から多用され、一番有名なのはラッファエッロの、聖母の足元で母親のおしゃべりが早く終わらんかなとつまんなそうに待ちぼうけてしている様な2人のプットちゃんだろう。話が逸れたが、私の中で断トツで一位のプットちゃんは、この子。
レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠、アンドレア・ヴェッロッキオの作品「イルカを抱くプット」。これはコピーなのだが、この環境に本当にぴったり。
上を見上げると、アルノルフォノの塔が闇の中へ。ツンと冷たい空気が張る冬の夜、足早に家へホテルへと帰り着きたいと思うが、ヴェッキオ宮殿の中庭にちょっぴり立ち寄って昼間とは違う姿を堪能してほしい。
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