神々の道を走る。
この日は「ルネサンスの輪」散策道の続きで、フィレンツェ北部「神々の道」を走ることにした。まずは、フィエーゾレへ向かってVecchia Fiesolana通りを登る。
フィエーゾレへ向かう道沿は素晴らしい邸宅が並ぶ。その邸宅の一つの外壁に飾られたエジブトへの逃避を描いた彩色テッラコッタのパネルが素敵だ。フィレンツェは15世紀にデッラ・ロッビアが美しい陶製の作品を作って以来、陶製の外壁装飾は伝統芸術のうちの一つである。
フレンツェからフィエーゾレへの約1kmほどのVecchia Fiesolana通りはとても趣のある通りであるが、傾斜が平均12%、最大18%とという丘を登る恐怖の道である。途中、力尽きて自転車を降りて押しながら登ると、フィレンツェの街が一望できる一角にきた。いつ見てもどこから見ても、フィレンツェは本当に美しい姿をしている。
休憩を兼ねてフィレンツェの麗姿を味わうことができた場所には、メディチ家の別荘が建っている。フィレンツェ周辺に幾つかあるメディチ家の別荘の中でもフィエーゾレのそれは、塔などの厳しい城塞感はなくルネサンス様式の快適さを重視した造りとなっていたそうだ。残念ながら建築当初の姿はもうほとんど残ってはいないが、庭園のみ希望者は有料見学できる。この別荘でメディチ家の人々と彼らの輝かしき友人たちがこの別荘から見た景色を、若干の違いはあろうが私も見ていると思うと感慨深い。自分が支配する町を眼下に見下ろす、まさに天下を取った気分を味わえたろう。
ようやく辿り着いたフィエーゾレの街への入り口、遠くドゥオモが垣間見ることができる道である。
今回はフィエーゾレは通り過ぎるだけで、さらに自転車で先に進む。フィレンツェ側から眺めるフィエーゾレは馴染みの風景だが、反対側からの眺めは初めてだ。こっち側の方が綺麗じゃない?フィエーゾレの紋章には三日月が描かれているのは2つの丘をつなぐ形が三日月のようだからとの説があるが、頷ける。
「ルネサンスの輪」散策道の中でも楽しみにしていたのが、「Via degli dei/神々の道」。名前を聞くだけでもわくわくする、雄大にして荘厳たるであろう散策道を、いざ行かん!
「神々の道」はボローニャのマッジョーレ広場とフィレンツェのシニョーリア広場を結ぶ130kmの道である。神々しいというか、物々しい名前の由来は道中に「ゼウスの山」や「ヴィーナスの山」「アドニスの山」などと、ギリシア・ローマ神話の神々の名を冠した山を通るためである。
こんな山道なのに石が敷かれているのは、ここが古代の街道だった証拠だ。紀元前7世紀からエトルリア人が、そして古代ローマ人が通った道は、一体どんな人々がここを歩いたかを想像するだけで面白い。
「今日の花」は、華麗な大人のフクシア色を纏う彼に決定。
道すがら平野に、19世紀のフィレンツェ出身の文人ブルーノ・チコニャーニのトスカーナに捧げた一節が刻まれた碑が建てられているのを発見。
碑の下には、クリスチャン・ボビンの詩が置かれていた。
私は通りすがりの木の幹に触れるのが好きだ。
そこに木が存在することを確かめるためではない
–木の存在は疑いがない–
そうではなく、私自身が存在することを確かめるために
紀元前から「存在」について多くの哲学者が思考してきたが、はて自分の存在を確かめるものは何でしょう?コロナ禍で仕事を中断中の私は、今のところは汗をかきながら無心に自転車で走ることも確かさを知る手段の一つかも知れない、なんて思いながら今日も必死で自転車を漕ぐのだった。
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