オルチャ渓谷観光情報
オルチャ渓谷とはシエナ県に属し、その中にはモンタルチーノ、ピエンツァ、サン・クイリコ・ドルチャ、カステリオーネ・ドルチャ、ラディコーファニの5つ市(コムーネ)があります。さらにモンティッキエッロ、バーニョヴィニョーニ、ロッカ・ドルチャ、ヴィヴォ・ドルチャなどの小さな村落が点在します。高台にたつと丘陵地に点々と散在する集落を望むことができ、いずれも中世の面影が美しく保たれた石造りの田舎町です。
オルチャ渓谷とは?
フィレンツェから車で約2時間南下した、南トスカーナに広がる約18,500ヘクタールの広大な丘陵地をオルチャ渓谷と呼びます。18,500ヘクタールの面積と言っても容易に想像がつきませんが、東西に、ゆるやかにくねる道をドライブして約1時間弱の距離です。 オルチャの谷には、谷中をその名称の元となるオルチャ川が流れています。オルチャ川は、渓谷の東の端に位置する標高1,148mのチェトーナ山を水源とし、渓谷の南にそびえる標高1,749mのアミアータ山の源流を融合しながら東西に横切り、トスカーナでアルノ川に続き2番目に長いとされるオンブローネ川へ合流し、最終的にはテレニア海(地中海)へ流れます。その川の周りがオルチャの谷となります。ここで渓谷と言っても、日本人が想像するような深い山に囲まれた急流を囲む谷ではありません。高いところでも標高500m前後のなだらかな丘陵地帯が360度広がっているのです。平地に丘があるようなどこにでも見られる風景ではなく、平地はなく全ての土地がおかになっているのです。重なり合うなだらかな丘が広がる景色は息をのむほどの美しさです。
オルチャ渓谷の大地は、大昔、海底であったため塩分を多く含んでいるうえに大変な粘土質で、耕作には不向きな痩せた土地でした。収穫が終わった夏の果てに、耕された乾いてカチカチに固まった茶色の大地を手に取ると不毛な土地といわれてきたのがわかるような気がします。それが14世紀になって、地主が「開墾すれば、収穫の半分を農民のものとする」という好条件を農民に提示したことで、不毛の土地は農民の手により掘り起こされました。14世紀以降のシエナ郊外の自然を描いた風景画には、オリーブ林や葡萄畑が描かれているのがわかります。
シエナ郊外(オルチャ渓谷)を表したフレスコ画として、シエナの市庁舎にある市立美術館内で鑑賞できるアンブロージョ・ロレンツェッティ作の「善政とその結果」が有名ですが、一時期は岩肌が露わになった砂漠のような不毛な土地となり通過するのも恐ろしがられるほどでしたが、戦後にフレスコ画で見られる風景を再現しようと努力した結果、現在の見事な景観を造り上げたのです。その努力が認められ、オルチャ渓谷は「自然遺産」としてではなく、「文化遺産」として2004年7月2日に世界遺産に登録されました。
オルチャ渓谷のどこから見ても眺めることのできるアミアータ山は18万年前から活動を休止している火山ですので、周辺には幾つかの温泉地があります。アミアータ山のおかげで、雹やあられなどの急激な気候の変化が妨げられることでモンタルチーノの葡萄畑が守られています。火山のミネラルも美味しいワインの要素の一つになっています。あまり知られていませんが、実はアミアータ山麓のオルチャ渓谷は他にも多くの大地の恵みを享受しているのです。アミアータ山のロバから絞る乳は、牛乳アレルギーのある子供でも安心して飲むことができるというピサ大学による研究発表があり注目を集めています。アミアータ産玉ねぎは、通常の玉ねぎよりも抗酸化物質を24倍も多く含むとも言われています。そしてオルチャ渓谷のペコリーノチーズは特別にまろやかな味わいで美味しいと言われますが、これもまたこの土地育つ牧草を食んだ羊の乳から作られるからなのです。
それでもやはり豊かとは言いがたいこの土壌には、ミネラルが豊富である海底であったことが反対に好条件となるワイン用の葡萄畑、痩せた土地で育つオリーブ林のほかに育つのは、小麦か牧草です。
オルチャ渓谷の春
春から初夏にかけて小麦と牧草が青々と茂る時期、オルチャ渓谷ならではの緑が一面に広がるすばらしい景観に出会えます。春分には大地が冬眠から覚め動き出す季節です。アーモンドや菜種が迎えてくれます。
4月5月は青麦の爽やかな季節です。緑の中に赤いポピーが咲き、ツバメが舞う美しい季節です。おそらく多くの人がテレビや写真で見た一面が緑の絨毯となるベストシーズンがこの時期です。
天気が良く雲がぽっかりと空に浮かぶ日は、緑の大地に影を作る雲が流れて行くのがわかります。一面の緑ですが、よく見ると小麦の若草色から、オリーブの灰色がかった緑、糸杉の深緑と、緑にも自然が織りなすグラデーションがあるのに気づきます。
オルチャ渓谷の夏
日差しがまぶしい夏になると、牧草が刈り取られロール状となり、金色に光る畑に点々と置かれます。干草の塊ですが、意外と重たく、押してもびくともしません。
オルチャ渓谷は「芸術、自然、文化公園」にも指定されています。地形に関しても特徴があり、「悪地」と呼ばれる、丘陵地に所々見られる堆積岩が急速に雨風の浸食を受けてできた山肌を削ったような地形もそのひとつです。
オルチャ渓谷は、重要な2つの街道、フィレンツェとローマを結ぶカッシア街道と、イギリスのカンタベリーの大司教シジェリコが10世紀にイギリスから聖ペテロの地・ローマへ向かう道を元にした巡礼の道フランチジェナ街道が通っています。フランチジェナ街道は、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ、キリストの聖墳のあるエルサレムへの巡礼と並び、欧州の3大巡礼の道の一つです。
このフランチジェナ街道は、イタリアで一番美しい街道と言われ、カンタベリーとローマ間1,600km、その間に79箇所を通過します。オルチャ渓谷の町、サン・クイリコ・ドルチャもそのひとつで、フランチジェナ通りが町の中心を通り抜けていたこともあり、当時は宿場町として栄えました。
丘の中を続く白い砂利道。何世紀も前にも旅人がまぶしい日差しの下、歩いた道でしょうか。道の脇に添えられた糸杉が絵になります。麦わら帽子をかぶって、散歩したら気持ちいいことでしょう。
オルチャ渓谷の秋
オルチャ渓谷のシンボル「トスカーナの糸杉」。この景色も季節ごとの顔を見せてくれます。お行儀良く並ぶ糸杉たち。今となってはトスカーナのシンボルである糸杉も、生まれはトスカーナではありません。東地中海や中近東より移植されました。常緑であることで永遠のシンボルとなり、樹液が醸す香りが死のにおいを覆うことから墓地に植えられるようになり、この世とあの世を分かつ境界線の役割を果たす神聖な木とされてきました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」をはじめ、ルネッサンス時代の絵画にも糸杉が登場します。糸杉は、この時代からトスカーナの風景を現すのに不可欠な要素のひとつだったのです。
オルチャ渓谷の特産品は、ワイン、チーズ、オリーブ・オイルなどです。特に、モンタルチーノ周辺で生産される赤ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」はイタリアワインの女王と呼ばれるに相応しいエレガントさを秘めています。また、オルチャ渓谷全般で造られるオルチャ銘柄(Orcia D.O.C.)のワインは赤・白あり、気軽に楽しめます。ピエンツァを中心として生産されるペコリーノ・チーズは、大変まろやかな味わいがし、熟成の期間、熟成の種類などでいくつもの種類が存在します。さらに、様々な種類の花から採集した幾種ものはちみつや、イノシシのサラミ、オリーブオイルなどがあります。
オルチャ渓谷の冬
秋も深まった頃に翌年用の小麦が植えられます。寒さがました頃に小麦の芽が出て、年末には少しずつですが土をあらわにした大地にも緑が戻って来ます。幾重にも重なり合う丘が、柔らかな光に包まれて、神秘的な表情を描きます。
線を描くような糸杉とその先に続く民家は、オルチャ渓谷を代表する風景です。
夕暮れのオルチャ渓谷は、柔らかな夕日で橙色に輝きます。日暮れが早い冬の旅は、フィレンツェへ帰着途中に低い日差しに包まれた詩的なオルチャ渓谷を見ることができます。
オルチャ渓谷の行き方
フィレンツェからバスで行けます。(シエナでバス乗り換え)
シエナ・モンタルチーノ間のバス時刻表のページへ
モンタルチーノ・シエナ間のバス時刻表のページへ
シエナ県内の移動はTiemmeバス社のページをご参照ください。
効率的に巡るには?
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