ピティリアーノ観光へ。
3月某日、曇り空を恨めしく見上げながら、南トスカーナの秘境の村ピティリアーノへ向かった。この日は、オルチャ渓谷のピエンツァとの組合せ。
久しぶりのピティリアーノ。突然、灰色の空を背に砂色の町が姿を表す。この景色は、死ぬまでに行きたい世界の絶景というものの一つであろう。
ピティリアーノは、古代ローマ人より古い、中部イタリアの先住民であるエトルリア人が起源である。とは言っても、町中にエトルリア人のこれといった名残があるわけではない。しかし、丘の上に町が築かれたことがその証拠となる。
ピティリアーノは、エトルリアの町を起源とし、オルシーニ家の支配下からメディチ家が支配するトスカーナ大公国であった歴史をもつ。ユダヤ人が多く住んだ町として有名で、特に第二次世界大戦中の反ユダヤ法から多くのユダ人を守り、小さなエルサレムと呼ばれている。
町を作るのに人々は築くというよりは(凝灰岩を)掘り続けた、と表現されるのがここを見るとわかる気がする。凝灰岩は柔らかいので彫りやすいとはいえ、自然の厳しさを物語る荒々しい岩肌をみると、よくここまで町を作り上げたものだと感心する。
決して華やかな町ではない。むしろ、少し寂れた生活臭を感じる街並みなのだ。そこが、とても魅力的。好き嫌いが分かれるだろうが、私はたまらなく好きである。
観光シーズンにはまだ早い、曇り空の平日。通りを歩く人はほとんどいない。出会うのは、猫ぐらいか。時に忘れ去られたようなこの空間に立っていると、「誰もいない町」とでも題した映画のセットにいるようだ。「理想郷」と名付けられた絵画の中には人が描かれておらず、理想郷でありながら不気味さを感じるのだが、そんなことをふと思い出すと不思議な気分になった。イースターを超えると多少の賑やかさが戻り、雰囲気が異なると付け加えたい。
標高約300mのピティリアーノ。町を散策していても他のトスカーナの村のように高低の差をそれほど感じないのだが、目抜き通りを結ぶ路地はご覧の通り。
凝灰岩から作られた町外れのソヴァーナ門。(この写真では、門がわかりにくいが)石から家が、門が、井戸や倉庫が生まれた。長い歴史を経た石は他では真似できない味がある。石が語りかけてくるのである。
町には幾つかのお土産屋がある。素敵な生地の布屋とか、手作りの服屋もあって、面白い。
毎年、年間3万人ほどの観光客がやってくる。独特の雰囲気を持つ町なので、もっと観光客が増えても良い気がするが、交通の不便さが観光客を遠のけている。実に勿体無いのだが、本音を言うとそのぐらいがちょうど良い。ちょっと寂れた感が魅力なのだ。同じくサッシ(岩)の町ということでピティリアーノはトスカーナのマテーラともいわれる。時が刻まれた石が町の主役で、無機質な町に漂う寂寥感は似ているが、寂寥の中にもトスカーナらしい洗練された粋がある町なのだ。
(写真は Italy Magazine から拝借)
ピティリアーノでは、年間にわたり興味深い催しを開催している。聖体の祝日には、インフィオラータと呼ばれる町中に花びらで絵を描く催しが開催される。今年の聖体の日は6月23日である。
8月2週目週末には中世の時代祭り、9月第一週末にはワイン祭り(今年は8月29日から9月1日)
今年はもう過ぎてしまったが、3月19日に行われるトルチャータ・ディ・サン・ジュゼッペは大きな藁人形に火を着け春を祝うお祭りで、なかなかに迫力がある。ちなみに、3月19日はサン・ジュゼッペ(キリストのお父さん)の日で、イタリアの父の日。9月のワイン祭りと3月のトルチャータは暗くなってから始まるので、ピティリアーノに1泊する必要がある。ピティリアーノと、オルチャ渓谷やオルヴィエートを組み合わせたプランも面白いのではないか?と、モデルプラン考案中。基本のモデルプランとしてピティリアーノ、ソラーノ、ソヴァーナの3つの凝灰岩の町訪問ツアーをご紹介しているが、3つとも「イタリアの美しい村」に認定されている。
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